仙台高等裁判所 昭和25年(う)939号 判決
しかし本件起訴状記載の公訴事実を通覧するにこの種の犯罪につきこの程度に事件の経緯概要を記述したからと言つて裁判官に対し事件につき予断を抱かしむる記載であると認める訳にはいかない右につき原審が刑事訴訟法第三百三十八条第四号による公訴棄却の判決をしなかつたのは相当である。論旨は理由がない。
(弁護人の控訴趣意)
第一点 原審は不法に公訴を受理したものである。
即ち、被告人両名に対する昭和二十四年七月二十三日附起訴状は、刑事訴訟法第二百五十六条に牴触する。
右起訴状記載の公訴事実は、犯罪の直接動機として不法建築物である起訴状記載の掛下に関する被告人等と渡部夫妻との間の撤去交渉不成立の経緯だけでなく、更に本件行為の遠因である渡部等の右掛下建築の事情、その敷地である土地家屋の買受関係、その他にまで詳細をきわめている。
右の事実は起訴当時各種供述書等の証拠書類に対し、被告人側の同意が得られないと予想されたためか検察側からそれらの提出のなかつた原審においては、裁判官に対し重大な予断を与えたものといわなければならない。
しかして、刑事訴訟法第二五六条は公訴事実と直接不可分の関係にない事情を詳細に記載して起訴状一本主義の脱法行為を図り、裁判官に事件について予断を与えることを避けさせる趣旨である。故に、右起訴状は、前示法条に違反するものであるから、公訴提起の手続がその規定に違反したため無効である(刑訴第二三八条第四号)として判決で公訴を棄却しなければならなかつた。にもかかわらず、これを看過したものである。この点において原判決は破毀を免れない。